サイバー保険とは|電気工事会社が補償内容を選ぶ観点
サイバー保険は、情報漏えいやサイバー攻撃などの「サイバー事故」で会社に生じる費用や賠償に備える損害保険です。日本損害保険協会は、サイバー事故が起こると大きく①事故対応費用、②損害賠償費用、③利益損害・営業継続費用の3つの費用が発生する可能性があると説明しています。一方で、ランサムウェアの被害で支払った身代金はサイバー保険の対象になりません。
電気工事会社は、発注者の図面や施設情報、協力会社の作業員名簿を預かり、保守契約では顧客設備の監視も担います。この記事では、そうした立場から「どの補償が必要か」を選ぶ観点を整理します。労災保険や請負業者賠償責任保険など、電気工事の保険全体の選び方は電気工事の保険の記事で解説しています。
サイバー保険の補償の仕組み
補償の対象になる事故
日本損害保険協会によると、サイバー保険は一般的に次の3つのサイバー事故で生じた損害を補償します。
- 情報の漏えいまたはそのおそれ
- ネットワークの所有・使用・管理に起因する他人の業務阻害
- サイバー攻撃に起因する他人の身体傷害・財物損壊
補償される費用の3分類
| 分類 | 費用の例 | 電気工事会社で想定される場面 |
|---|---|---|
| 事故対応費用 | 事故原因の調査費用、法律相談の費用など | ランサムウェア感染の調査と復旧、作業員名簿の漏えいの通知 |
| 損害賠償費用 | 法律上負担する損害賠償の費用、争訟の費用など | 預かった発注者の図面が漏れて賠償を求められる |
| 利益損害・営業継続費用 | 事故で事業が止まったことによる損失や、営業を続けるための費用 | 積算・図面のシステムが止まり、工事や入札が遅れる |
費用の例は、日本損害保険協会の調査で「サイバー保険の一般的な補償内容」として示された項目です。具体的にどの費用がどこまで補償されるかは、保険会社やプランによって異なります。契約前に約款と補償内容を確認してください。
中小企業の加入状況と被害の実態
日本損害保険協会の「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」(中小企業の経営者・従業員1,050名、2025年8〜9月のインターネット調査)から、関係する結果を抜き出します。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 事業活動でサイバーリスクを認識している | 32.7%(5年間で10.1ポイント上昇) |
| 損害保険で備えたいリスク | 「自然災害」39.5%に次いで「サイバーリスク」25.5% |
| 行っているサイバーリスク対策のうち「サイバー保険の加入」 | 1割程度 |
| 未加入の保険のうち、加入意向がある保険 | 「サイバー保険」24.0%(2番目) |
| 被害にあった企業の受け止め | 「リスクに対する備えが不足していたと思う」54.5%、「被害額がこんなにも高くなると思っていなかった」51.1% |
同じ調査では、サイバー被害で生じた不利益として「原因・影響調査や関係者対応にかかる事故対応費用」「業務関連システムやメールの停止による納期遅れ・営業機会損失」「取引先・顧客からの損害賠償」が上位に挙がっています。
被害の大きさについては、警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」が、ランサムウェアの被害組織のうち復旧に総額1,000万円以上を要した組織が5割を超えたとしています。
電気工事会社が想定すべきサイバー事故
保険を選ぶ前に、自社でどんな事故が起こり得るかを書き出します。
| 想定される事故 | 関係する補償 |
|---|---|
| ランサムウェアで積算・図面・工事写真が使えなくなる | 事故対応費用、利益損害・営業継続費用 |
| 発注者から預かった施設図面や受変電設備の情報が漏れる | 損害賠償費用、事故対応費用 |
| 協力会社の作業員名簿など個人情報が漏れる | 事故対応費用(通知・相談)、損害賠償費用 |
| 自社のメールが乗っ取られ、取引先にウイルス付きメールが送られる | 損害賠償費用(他人の業務阻害) |
| 保守契約で設置した監視機器の設定不備から、顧客のネットワークに影響が出る | 損害賠償費用(他人の業務阻害) |
| 偽の振込先変更の依頼に応じて送金してしまう | 商品によって扱いが異なるため個別に確認 |
最後の振込詐欺(ビジネスメール詐欺)は、商品によって扱いが異なります。補償の対象かどうかは、必ず約款で確認してください。メールの手口と防ぎ方はメール経由の事故の記事で解説しています。
補償内容を選ぶ観点
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 既存の保険との重なり | 加入中の賠償責任保険で、サイバー事故による賠償が対象か・除外か |
| 事故対応の支援 | 調査会社や弁護士の紹介、24時間の事故受付があるか |
| 利益損害の範囲 | システム停止による工期遅れや受注機会の損失がどこまで対象か |
| 保険金額と免責 | 自社の売上規模、預かっている情報の量に見合うか |
| 告知・加入条件 | 対策状況の申告内容、セキュリティ対策の実施が条件になっているか |
| 割引 | SECURITY ACTIONの宣言や認証の取得で割引があるか |
団体型の保険と割引
IPA(情報処理推進機構)の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」は、中小企業が加入しやすい団体型の商品として、日本商工会議所が会員向けに提供する「サイバー保険制度」や、全国商工会連合会の「商工会の情報セキュリティサポート保険」、業界団体などによる団体制度があると紹介しています。こうした保険では、SECURITY ACTIONの宣言、プライバシーマークやISMSの認証取得、適切な情報管理体制の導入で保険料が割引になるものがあるとしています。SECURITY ACTIONの始め方はSECURITY ACTIONの記事を参照してください。
また、IPAの「サイバーセキュリティお助け隊サービス」は、見守り・駆け付け・保険などをワンパッケージで提供する制度です(EDR・UTMの記事参照)。
保険は対策の代わりにならない
保険はお金の損失を補うもので、止まった工事や失った信用は戻りません。また、身代金は対象外です。保険の検討と同時に、バックアップや多要素認証などの基本対策を進め、事故のときに保険会社へ連絡する手順をランサムウェア対策の記事の初動カードに書き込んでおきましょう。
【独自】保険会社・代理店に聞く質問リスト
- 発注者から預かった図面・施設情報の漏えいによる賠償は対象か
- 協力会社の作業員名簿など、自社の従業員以外の個人情報の漏えいは対象か
- システム停止による工期遅れの損失はどこまで対象か
- 遠隔監視など、顧客設備に関わる業務で生じた事故は対象か
- 調査会社・弁護士の手配や24時間の事故受付はあるか
- 加入中の賠償責任保険との重なりと隙間はどこか
- SECURITY ACTIONの宣言などで割引はあるか
- ビジネスメール詐欺による送金被害の扱いはどうか
まとめ
サイバー保険は、事故対応費用・損害賠償費用・利益損害の3つに備える保険で、身代金は対象外です。電気工事会社は、預かった図面や名簿の漏えい、遠隔監視先への影響、システム停止による工期遅れを想定して補償内容を選び、加入中の賠償責任保険との重なりを確認しましょう。団体型の保険やSECURITY ACTIONによる割引も比較の材料になります。
あわせて読みたい
- 電気工事の保険|労災・特別加入・賠償責任保険の選び方
- ランサムウェア対策と感染したら|電気工事会社の初動と備え
- SECURITY ACTIONとは|電気工事会社の一つ星・二つ星の始め方
- 情報漏洩の原因と対策|電気工事会社の図面・名簿の守り方
出典・参考
- 一般社団法人日本損害保険協会「サイバー保険」https://www.sonpo.or.jp/cyber-hoken/about/
- 一般社団法人日本損害保険協会「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025 調査結果報告書」(2025年12月)https://www.sonpo.or.jp/sme_insurance/assets/pdf/survey/sme_report2025.pdf
- 同協会 ニュースリリース(2025年12月11日)https://www.sonpo.or.jp/news/release/2025/a5663v0000000egc-att/251211_01.pdf
- 警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R7/R07_cyber_jousei.pdf
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」(2026年3月27日)https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html
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