二段階認証・多要素認証とは|電気工事会社の設定の優先順位
多要素認証とは、ログインのときに「知っているもの(パスワード等)」「持っているもの(スマホ、ICカード等)」「本人自身に関するもの(指紋、顔等)」の3つの要素のうち2つ以上を組み合わせて本人を確かめる方法です。二段階認証は確認を2回に分ける方法で、2回とも同じ種類の要素(例:パスワードと秘密の質問)だと多要素にはなりません。
パスワードが漏れても、もう1つの要素がなければログインされにくくなるのが利点です。この記事では、電気工事会社が「どのアカウントから設定するか」を、現場の持ち物と取引の流れに合わせて整理します。
多要素認証と二段階認証の違い
IPA(情報処理推進機構)の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」は、多要素認証を「3つの要素(①知っているもの②持っているもの③本人自身に関するもの)のうち、2つ以上の要素を用いて行う技術」と説明しています。
| 要素 | 例 | 電気工事会社の身近な例 |
|---|---|---|
| 知っているもの | パスワード、PIN、秘密の質問 | メールのパスワード、電子入札ICカードのPIN |
| 持っているもの | スマホの認証アプリ、SMS、ICカード | 社用スマホ、電子入札のICカード |
| 本人自身に関するもの | 指紋、顔 | 現場タブレットの顔認証・指紋認証 |
二段階認証は「段階の数」、多要素認証は「要素の種類の数」に着目した呼び方です。サービスの画面では「2段階認証」と表示されていても、実際はパスワードのあとにスマホへ届くコードを入れる仕組み(知っているもの+持っているもの)であることが多く、その場合は多要素認証にもなっています。
なぜ今、多要素認証が必要か
IPAの「企業組織を狙う攻撃メールの手口とその対策」(2026年8月3日)は、組織が事前に定めるルールとして、インターネットから直接アクセスできるサービスやシステム(SaaS、メール等)は多要素認証を必須とすることを挙げています。SaaS(ソフトウェアをインターネット経由で使うサービスのこと)は、場所を問わずログインできる便利さの裏で、パスワードさえ分かれば誰でも入れてしまうからです。
また、警察庁の「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」は、ランサムウェア被害の侵入経路としてVPN機器が6割以上を占め、攻撃者が漏えいした認証情報や簡易なパスワードを悪用すると述べています。IPAのガイドラインも、VPNや重要なシステムでは「多段階認証、多要素認証、パスキーなどの認証強化機能を利用する」よう対策例に挙げています。
電気工事会社が設定する優先順位
全部を一度に設定する必要はありません。漏れたときの被害が大きく、社外からログインできるものから順に進めます。
| 優先度 | 対象 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 事務所のVPN、リモートデスクトップ | 社内ネットワーク全体への入口になる |
| 2 | 会社のメール | 取引先へのなりすましや、他サービスのパスワード再設定に悪用される |
| 3 | 工事写真・図面のクラウド、共有フォルダ | 発注者の施設情報や竣工図が保存されている |
| 4 | 会計ソフト、ネットバンキング | お金が直接動く |
| 5 | 受変電・デマンドの遠隔監視クラウド | 顧客設備の情報と、機種によっては設定変更の権限がある |
| 6 | 安全書類の提出サイト、チャット | 協力会社の作業員名簿などの個人情報が集まる |
電子入札は、もともとICカード(持っているもの)とPIN(知っているもの)を組み合わせる仕組みです。ICカードとPINのメモを同じ封筒に入れて保管すると2つの要素が一度に盗まれるので、カードとPINは別の場所に保管します。
現場ならではの悩みと対処
共用タブレットで認証コードを誰が受けるか
現場で複数人が使うタブレットに多要素認証をかけると、認証コードが届くスマホを誰が持つかが問題になります。対処の考え方は次のとおりです。
- 共用をやめて1人1アカウントにできないか、まず検討する
- 共用せざるを得ない場合は、現場代理人など責任者のスマホで認証し、ログイン状態を保つ期間をサービスの設定で決める
- タブレット本体には画面ロックをかけ、紛失時に遠隔でロックできるようにする(MDMの記事で解説)
協力会社のアカウント
自社のクラウドに協力会社を招待している場合、協力会社側のアカウントに多要素認証がなければ、そこが弱点になります。招待するときに設定を依頼し、取引が終わったら招待を外すところまでを手順にしておきます。
機種変更とスマホ紛失への備え
認証アプリを入れたスマホを紛失・機種変更すると、本人もログインできなくなります。設定時に表示されるバックアップコード(予備のログイン用コード)を印刷して金庫に保管し、どのサービスに設定したかを台帳に残しておきます。台帳の作り方はパスワード管理の記事を参照してください。
多要素認証でも防げない手口
IPAの同資料は、偽サイトに入力させたID・パスワードとワンタイムパスワードをその場で抜き取って正規サイトに入力する「リアルタイムフィッシング」が増えていると注意を促しています。SMSや認証アプリの多要素認証も、偽サイトに自分でコードを入れてしまえば突破されます。
- メールやSMSのリンクからログイン画面を開かない(ブックマークや公式アプリから開く)
- 自分がログインしていないのに認証コードや承認通知が来たら、承認せずに管理者へ報告する
- 対応しているサービスでは、パスキー(端末の生体認証などを使い、パスワードを入力しない認証方式のこと)の利用も検討する
不審なメールの見分け方はメール経由の事故の記事でまとめています。
【独自】設定状況のチェックリスト
- VPN・リモートデスクトップに多要素認証を設定した
- 全社員の会社メールに多要素認証を設定した
- 工事写真・図面のクラウドで、社員と協力会社の両方に設定した
- ネットバンキングの認証を最も強い方式にした
- 遠隔監視クラウドの管理者アカウントに設定した
- バックアップコードを金庫に保管し、台帳に記録した
- 身に覚えのない認証通知が来たときの報告先を全員に伝えた
- 退職者・取引終了の協力会社のアカウントを停止する手順を決めた
まとめ
多要素認証は「知っているもの・持っているもの・本人自身に関するもの」のうち2つ以上で本人を確かめる方法で、パスワードが漏れたときの最後の防波堤になります。電気工事会社では、VPNとメールから始め、工事写真・図面のクラウド、遠隔監視の管理画面、協力会社とのやり取りへと広げていくのが現実的です。ただし偽サイトにコードを入れれば突破されるので、メールのリンクからログインしない習慣とセットで運用してください。
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出典・参考
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」(2026年3月27日)https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html
- IPA セキュリティセンター「企業組織を狙う攻撃メールの手口とその対策」(2026年8月3日)https://www.ipa.go.jp/security/support/rcu1hd0000019vmo-att/20260803_1.pdf
- 警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R7/R07_cyber_jousei.pdf
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