バックアップの方法と3-2-1ルール|電気工事会社のデータ保全
バックアップの基本は3-2-1ルールです。IPA(情報処理推進機構)は、データを3つ持ち(運用データ1つ、バックアップデータ2つ)、2種類の異なる媒体でバックアップし、そのうち1つは異なる場所(オフサイト)で保管する方法を「理想的なバックアップの方法」として紹介しています。
そのうえで、ランサムウェア(データを暗号化して身代金を要求する不正プログラムのこと)対策としては、ネットワークから切り離したオフラインのバックアップと、実際に戻せるかの確認が欠かせません。警察庁は、ランサムウェアでバックアップデータも暗号化される事例が多数確認されているとしています。
3-2-1ルールの中身
| 数字 | 意味 | 電気工事会社での例 |
|---|---|---|
| 3 | データを3つ持つ(元データ1+バックアップ2) | 事務所のNASの図面+外付けディスク+クラウド |
| 2 | 2種類の異なる媒体に保存する | ディスクとクラウド、ディスクとテープなど |
| 1 | 1つは別の場所に保管する | 事務所とは別の場所(クラウド、別拠点、社長の自宅の金庫など) |
このルールは、米国のCISA(サイバーセキュリティ・インフラストラクチャ安全保障庁)の資料「Data Backup Options」でも、重要なファイルを3つ持ち、2種類の媒体に分け、1つを社外に保管する方法として説明されています。
地震と火災だけでなく「攻撃」も想定する
これまでのバックアップは、パソコンの故障や地震・火災に備えるものでした。今は、常に事務所のネットワークにつながっているバックアップは、元のデータと一緒に暗号化されることを前提にする必要があります。警察庁の「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」も、攻撃者は内部を探索してバックアップを物色し、復旧を妨害するためにバックアップも一緒に暗号化する場合が多いと書いています。
警察庁は、バックアップをなるべくこまめに取得し、ネットワークから切り離してオフラインで保存するなど、データの重要性に応じて暗号化されないよう備えることを推奨しています。
電気工事会社のデータを分けて考える
すべてのデータを同じ頻度でバックアップする必要はありません。止まったときの影響と、どれだけ前まで戻ってよいかで分けます。
| データ | 失ったときの影響 | 推奨する頻度の考え方 | 保管期間の考え方 |
|---|---|---|---|
| 積算データ・見積書 | 入札・見積の提出に間に合わない | 作業のある日は毎日 | 社内規程で決める |
| CAD図面・施工図 | 施工と検査の準備が止まる | 毎日 | 工事完了後も保守・改修に備えて長期 |
| 工事写真・電子納品データ | 撮り直しができない | 撮影した日に | 発注者の指定・契約に従う |
| 竣工図・完成図書 | 数年後の改修・増設の見積ができない | 竣工時に確実に | 長期(建物の使用期間を見据える) |
| 保守点検の記録・顧客台帳 | 点検報告や次回の点検計画が立たない | 点検のたび | 契約期間とその後の一定期間 |
| 会計・給与のデータ | 支払い・請求が止まる | 毎日 | 法令で定められた期間 |
電気工事では、竣工図や機器の完成図書を数年後の改修工事で使うことがよくあります。工事中のデータだけでなく、終わった工事の図面を長く守る視点も必要です。工事写真の撮り方と管理は工事写真の撮り方の記事、電子納品のデータ整理は電子納品の手順の記事も参照してください。
バックアップの運用で決めること
IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」は、規模を問わず実行すべき「情報セキュリティ6か条」に「バックアップを取ろう!」を加え、適切な運用として次の項目を挙げています。
| 段階 | 決めること |
|---|---|
| 取得する | 対象の選定、取得方法や取得日時、間隔 |
| 保管する | 保管場所、世代管理(過去の複数の時点のデータを残すこと)、保管期間 |
| 復旧する | 復旧計画、正しく復旧できることの確認 |
世代を残す
ランサムウェアの感染や誤った上書きに気づくのが遅れると、最新のバックアップにも被害が写り込みます。1日前・1週間前・1か月前など、複数の時点を残すことで、被害の前に戻れる可能性が上がります。
戻せるかを試す
警察庁は、実際の被害では日頃の運用面の課題でバックアップからの復旧がうまくいかない事例も発生しているとして、訓練で復旧手順を確認しておくことを推奨しています。IPAのガイドラインには、年2回のリストア訓練(バックアップから戻す練習)をしていた建設業の会社が、ランサムウェアの被害後5日で基幹システムを再稼働できた一方、社内ファイルの2割強を失った事例が載っています。訓練は、戻せるものと戻せないものを事前に知るためにも必要です。
クラウドストレージをバックアップに使うときの注意
クラウドストレージは「別の場所」の保管先として便利ですが、注意点があります。
- 同期とバックアップは違う: パソコンのフォルダと常に同期する設定では、暗号化されたファイルや削除もそのままクラウドに反映されます。過去の版に戻せる機能(版の履歴・ごみ箱の保持期間)を確認しておきます。
- 共有設定のミス: 総務省はクラウドサービスの設定ミスによる情報漏えいが多発していることを背景に、「クラウドサービス利用・提供における適切な設定のためのガイドライン」を公表しています。図面や名簿を保存するフォルダの共有範囲を定期的に確認します。
- アカウントの保護: クラウドの管理者アカウントに多要素認証を設定します(多要素認証の記事)。
フォルダ構成や権限設計は建設業のクラウドストレージ活用術で解説しています。
【独自】少人数の事務所向けバックアップ構成の例
社長と事務員1〜2名で回している事務所でも続けやすい構成の例です。製品は特定せず、役割で示します。
| 役割 | 置き場所 | 運用 |
|---|---|---|
| 元データ | 事務所のNASまたはクラウド | 日々の作業で使う |
| バックアップ1 | 事務所の外付けディスク(自動) | 毎日自動で取得、世代を残す |
| バックアップ2(オフライン・別の場所) | 外付けディスクを2台用意して交互に持ち帰る、またはネットワークから切り離せる保管先 | 週1回、取得したらネットワークから外して事務所の外で保管 |
【独自】バックアップの点検チェックリスト
- バックアップの対象(積算・図面・写真・竣工図・保守記録・会計)を一覧にした
- 3つのコピー、2種類の媒体、1つは別の場所、になっている
- 少なくとも1つはネットワークから切り離して保管している
- 過去の複数の時点(世代)が残っている
- 半年に1回などの頻度で、実際にファイルを戻す練習をしている
- 竣工図・完成図書を、工事完了後も長く保管するルールがある
- クラウドの共有範囲と、管理者アカウントの多要素認証を確認した
- バックアップの担当者と、不在時の代わりの人を決めた
まとめ
バックアップは、3つのコピー・2種類の媒体・1つは別の場所という3-2-1ルールが基本です。ランサムウェアではバックアップも狙われるため、少なくとも1つはネットワークから切り離して保管し、世代を残し、実際に戻せるかを定期的に試しましょう。電気工事会社は、工事中のデータに加えて、数年後の改修で使う竣工図や保守記録を長く守る視点も大切です。
あわせて読みたい
出典・参考
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「日常における情報セキュリティ対策」https://www.ipa.go.jp/security/anshin/measures/everyday.html
- IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」(2026年3月27日)https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html
- 警察庁「ランサムウェア被害防止対策」https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/ransom.html
- 警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R7/R07_cyber_jousei.pdf
- 総務省「クラウドサービス利用・提供における適切な設定のためのガイドライン」報道資料(令和4年10月31日)https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01cyber01_02000001_00149.html
- CISA "Data Backup Options" https://www.cisa.gov/sites/default/files/publications/data_backup_options.pdf
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