超高圧直流送電(HVDC)の仕組みと国内外の実例|長距離・大容量送電の主役
超高圧直流送電(HVDC)とは
超高圧直流送電(High Voltage Direct Current、以下HVDC)は、送電端で交流を直流に変換し、超高電圧の直流のまま長距離を送電したうえで、受電端で再び交流に戻して系統へ供給する送電方式です。電圧階級は±250kVから海外の最新設備では±1100kVに達しており、数百キロメートルから数千キロメートル規模の電力輸送や、周波数の異なる系統同士の連系に用いられます。
電気工事業者にとっては直接施工する機会の少ない領域ですが、変換所構内の付帯設備工事、所内電源工事、制御ケーブル工事、接地工事など、関連する電気工事が存在します。系統全体を理解しておくと、上流の電源構成から下流の需要家設備までを一貫した視点で説明できるようになり、技術提案や入札書類の説得力にもつながります。
HVDCの歴史と国内導入の経緯
世界初の商用HVDC送電は1954年、スウェーデン本土とゴットランド島を結ぶ海底ケーブルです。直流100kV・20MWという小規模ながら、長距離海底ケーブルで交流送電の限界を突破した記念碑的な設備でした。以後ヨーロッパや北米で海底連系・地域間連系を中心に普及し、1970年代以降は半導体技術(サイリスタ)の発達で大容量化が進みます。
国内ではオイルショック後の電源多様化と、北海道・本州間の電力融通を目的として1979年に初代北本連系設備(±125kV・15万kW)が運用開始。これが日本初のHVDC設備です。その後段階的な増強を重ね、現在は新北本も含めて90万kWの容量に到達しています。周波数変換用としては1965年の佐久間周波数変換所が国内最古で、東西の系統を非同期で結ぶ役割を半世紀以上担っています。
交流送電との違いと採用理由
HVDCが選ばれるのは、交流送電(HVAC)が苦手とする条件下です。主な比較は以下のとおりです。
| 比較項目 | 交流送電(HVAC) | 直流送電(HVDC) |
|---|---|---|
| 送電損失 | 表皮効果・誘電損あり | 低損失(長距離で有利) |
| ケーブル容量 | 充電電流で長距離に不利 | 充電電流が原理的にゼロ |
| 周波数連系 | 同期化必須 | 非同期連系が可能 |
| 変換設備 | 不要 | 両端に変換所が必要 |
| 短絡電流 | 系統に流れ込む | 直流側で遮断可能 |
| 適用距離 | 〜数百km(架空)/〜50km(ケーブル) | 数百〜数千km(架空)/海底でも可 |
長距離の架空送電では概ね600km以上、地中・海底ケーブルでは概ね50km以上でHVDCが経済的に有利になるとされています。さらに国内で重要なのは、東日本(50Hz)と西日本(60Hz)のような周波数の異なる系統間を非同期で連系できる点で、これは交流では実現できません。
国内のHVDC設備
国内では離島連系・周波数変換・地域間連系の三つの目的でHVDCが導入されています。代表的な設備は次のとおりです。
| 設備名 | 区間 | 電圧 | 容量 | 主目的 |
|---|---|---|---|---|
| 北本連系設備 | 北海道〜本州(青森) | ±250kV | 90万kW(増強後) | 地域間連系・非常時融通 |
| 紀伊水道直流連系設備 | 四国〜関西 | ±250kV | 280万kW | 大容量送電・系統安定化 |
| 飛騨信濃周波数変換設備 | 中部〜東京(50/60Hz) | ±200kV | 90万kW | 周波数変換(BTB) |
| 新信濃周波数変換所 | 中部〜東京 | ±125kV | 60万kW | 周波数変換 |
| 佐久間周波数変換所 | 中部〜東京 | ±125kV | 30万kW | 周波数変換 |
北本連系設備は北海道胆振東部地震(2018年)の際に本州からの電力融通に使われ、ブラックアウトからの復旧に重要な役割を果たしました。地震や台風などの広域災害が頻発する近年、地域間連系の容量増強は国の重要政策となっており、新北本(30万kW)も含めて段階的に拡張が進んでいます。
海外の超高圧化と技術トレンド
海外、特に中国とインドでは±800kV級・±1100kV級の特高圧HVDC(UHVDC)が実用化されています。代表例を挙げます。
- 準東〜皖南線(中国): ±1100kV、12,000MW、送電距離3,324km。世界最高電圧クラスのUHVDC
- 錫盟〜泰州線(中国): ±800kV、10,000MW
- NordLink(ノルウェー〜ドイツ): ±525kV、1,400MW、海底ケーブル623km
- Western Link(イギリス国内): ±600kV、2,200MW、海底ケーブル
技術的にはサイリスタを使うLCC方式(線間転流型)が大容量送電の主流ですが、近年は自励式のVSC方式(電圧型自励式コンバータ)が普及しています。両者の違いは以下のとおりです。
| 比較項目 | LCC方式 | VSC方式 |
|---|---|---|
| 主要素子 | サイリスタ | IGBT |
| 容量 | 〜12,000MW級まで実績 | 〜2,500MW級が中心 |
| 損失 | 0.6〜0.8%/変換所 | 1.0〜1.2%/変換所 |
| 無効電力 | 別途補償装置が必要 | 独立制御が可能 |
| 起動電力 | 必要(ブラックスタート不可) | ブラックスタート可能 |
| 弱小系統連系 | 不向き | 適している |
| 主用途 | 大陸間・大容量送電 | 洋上風力・離島連系 |
VSCは無効電力を独立して制御でき、洋上風力など弱小系統との連系に強いという特徴があり、欧州の海底HVDCのほぼ全てがVSC方式です。一方、ギガワット級の大容量送電では引き続きLCC方式が選ばれており、用途によって棲み分けが進んでいます。
HVDC技術の理論的背景
直流送電が長距離で有利になる理論的根拠を整理しておきます。交流送電では電線の表皮効果(高周波電流が導体表面に集中する現象)により実効抵抗が大きくなり、長距離では送電損失が無視できない大きさになります。さらに、地中・海底ケーブルでは絶縁体の静電容量に対する充電電流が距離に比例して増大し、ある距離を超えると有効電力を送電できなくなる物理的限界が存在します。一般に275kV級の海底ケーブルでは40〜50km、500kV級では30km程度がHVAC送電の上限とされています。
これに対して直流では周波数がゼロのため、原理的に表皮効果も充電電流も存在しません。直流抵抗による発熱損失のみが課題で、これは導体断面積で決まります。同じ送電容量を比較すると、HVDCは一般に2本の導体(正極+負極)で実現できる一方、交流三相では3本必要であり、ケーブル本数・鉄塔幅・線路用地のいずれもHVDCの方が小さく済みます。
変換所の構成と付帯電気工事
HVDC変換所は概ね以下の設備で構成され、屋内外にわたって大規模な電気工事を伴います。
| 区分 | 主な設備 | 関連工事 |
|---|---|---|
| 主回路 | 変換器(サイリスタバルブ/IGBT)、変換用変圧器 | 据付・母線・冷却配管 |
| 直流側 | 平滑リアクトル、直流フィルタ、開閉装置 | 据付・接地・絶縁支持 |
| 交流側 | 交流フィルタ、無効電力補償装置 | 母線・接地・遮断器 |
| 制御保護 | ディジタル制御装置、保護リレー | 制御ケーブル・通信・盤工事 |
| 補機 | 冷却塔、空調、消火、所内電源 | 配管・配線・防災設備 |
| 屋外 | がいし、避雷器、接地網 | 接地・避雷・支持構造 |
中小電気工事業者が関わるのは主に所内電源・補機制御・防災設備・通信設備などの付帯領域です。元請ゼネコンと電力会社の下請として参加するケースが多く、特高設備の近接作業に関する特別教育や活線近接作業のリスクアセスメントが求められます。
施工・保守における注意点
HVDC関連の電気工事で押さえておきたい技術ポイントは次のとおりです。
- 接地系統: 単極大地帰路(モノポーラ)運用では大地に直流電流が流れるため、変換所周辺の埋設金属体には電食対策が必要です
- 高調波対策: 変換動作によって12次・24次の高調波が発生するため、交流フィルタやリアクトルの設計値を遵守し、設置後の高調波測定を確実に実施します
- 絶縁協調: 直流側は電圧極性の反転を伴うため、がいし・避雷器の選定はHVDC専用品を使用します
- 離隔距離: ±500kV級では空気絶縁の最小離隔が4m前後必要となり、活線近接作業はゼロ距離前提で計画します
- 消弧対策: 直流は電流のゼロクロスがないためアーク消弧が困難で、専用の直流遮断器または機械的開閉と冷却の組み合わせが必要です
経済性と損益分岐
HVDC導入の意思決定では、変換所の建設費(数百億〜数千億円)と、交流送電に対する送電損失の削減効果のトレードオフが議論されます。一般的な損益分岐の目安は以下のとおりです。
| 形態 | 経済的に有利になる距離 | 備考 |
|---|---|---|
| 架空送電 | 600〜800km以上 | 鉄塔・がいしのコストでHVDCが安くなる |
| 地中ケーブル | 50〜80km以上 | 充電電流の問題でHVACに距離限界 |
| 海底ケーブル | 30〜50km以上 | 同上、洋上風力連系で頻出 |
| BTB(背中合わせ) | 距離無関係 | 周波数変換・非同期連系専用 |
距離が短くてもBTB方式(送受両端の変換所を同じ建屋内に設置)は周波数変換や系統分離のために採用されます。佐久間・新信濃・飛騨信濃などの周波数変換所がこの形式です。
関連する法規と保安体制
HVDC設備は電気事業法の特別高圧設備に該当し、電気主任技術者の選任、保安規程の届出、定期点検が義務付けられています。電気工事業者として関連する主な法規・規格は次のとおりです。
- 電気事業法: 工事計画届出、使用前自主検査、定期検査
- 電気設備技術基準および解釈: 絶縁・接地・離隔距離の規定
- JEC-0102/0104: 直流電圧・絶縁協調の電気学会規格
- IEC 60633/61803: HVDC用語・損失計算の国際規格
- 労働安全衛生規則: 特別教育、活線近接作業の基準
特高設備の付帯工事を請け負う場合は、第一種電気工事士の資格に加えて、特別高圧電気取扱業務特別教育(労安衛則第36条第4号)の修了が必須です。
今後の展開と電気工事業者への影響
国の電力広域的運営推進機関の長期方針では、再エネ大量導入に対応するための地域間連系強化が重点課題となっており、関門連系線の増強や北海道-本州間の海底HVDC新設などが検討されています。洋上風力の本格導入に伴い、洋上変電所〜陸上連系点を結ぶVSC方式の海底HVDCの需要も拡大が見込まれます。
電気工事業者にとっての影響は、(1)変換所建設に伴う付帯設備工事の需要増、(2)再エネ系統連系のための受変電・保護装置更新の需要増、(3)需要家側でも特高受電設備の高度化・遠隔化が進むという三方向で現れます。長距離送電・大電源の動きを理解しておくと、需要家側の受変電設備の点検実務や電力監視システムの導入を提案する際の文脈づくりに役立ちます。
洋上風力とHVDCの組み合わせ
国内で洋上風力の本格導入が進むなかで、HVDCの存在感は急速に増しています。陸上から離れた洋上ウインドファーム(10〜100km沖合・数百MW級)を陸上系統へ接続する場合、交流送電では充電電流とリアクタンスの問題で経済性が成立しないため、VSC方式のHVDCが事実上の標準となります。
国内の北海道・東北沖・九州沖などで計画されている大規模洋上風力では、洋上変電所で集電した電力を一旦HVDCに変換し、海底ケーブルで陸上の変換所まで送電してから既設の交流系統に接続する構成が検討されています。電気工事業者にとっては、(1)洋上変電所の据付・配電工事、(2)陸上変換所〜既設変電所間の連系工事、(3)需要家側の系統安定化対策(蓄電池設備や自家用受変電設備)の3領域で関連業務が発生します。
よくある誤解と用語整理
HVDCに関して、現場でしばしば見られる誤解と用語の混同を整理しておきます。
- HVDC ≠ DC給電システム: HVDCは送電インフラの話、DC給電(直流給電)はデータセンターや建物内の機器配電の話で、電圧階級も用途も全く異なります
- HVDC ≠ 直流ハイテンション: 自動車業界の「直流ハイテンション」は車載48V程度を指し、HVDCとは無関係
- 直流送電 ≠ 単相直流: 一般のHVDCは正極・負極を持つ「双極(バイポーラ)」運用が基本で、片極が故障しても残り片極で容量を縮小して送電継続できます
- 電圧表記: ±500kV と書かれた場合、正極が+500kV、負極が-500kVであり、極間電圧は1,000kVになります
まとめ
超高圧直流送電(HVDC)は、長距離・大容量・周波数の異なる系統連系を実現する送電インフラの主役です。国内では北本・紀伊水道・周波数変換所などで実績があり、海外では±1100kV級のUHVDCも稼働しています。電気工事業者が直接施工する機会は限定的ですが、変換所付帯工事・系統連系工事・特高受電設備の更新需要は今後も拡大が見込まれます。
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