電気工事の作業手順書の作り方|施工要領書との違い
作業手順書とは
作業手順書は、個別の作業をステップバイステップで安全に実行するための手順を文書化したものです。施工要領書がある程度の技術的知識を前提とするのに対し、作業手順書はその作業を初めて行う作業員でも安全に作業できるレベルの詳細さが求められます。
施工計画書・施工要領書・作業手順書の関係
| 書類 | 対象範囲 | 詳細度 | 主な読者 |
|---|---|---|---|
| 施工計画書 | 工事全体 | 方針レベル | 発注者・監督員 |
| 施工要領書 | 工種単位 | 技術的手順レベル | 職長・技術者 |
| 作業手順書 | 単一作業 | 動作レベル | 全作業員 |
施工要領書との違いについては「施工要領書の書き方【電気設備工事】」も参照してください。
具体例で見る違い
「ケーブルラックの取付」を例にすると:
- 施工計画書: 「ケーブルラックは設計図書に基づき所定の位置に設置する」
- 施工要領書: 「吊りボルトをインサートに固定し、ラックを水平に設置する。支持間隔は1.5m以内」
- 作業手順書: 「①スケールで位置を測定し、墨出しする ②インパクトドライバーで吊りボルトを取付(トルク○N・m) ③水準器で水平を確認(±3mm/m以内) ④ボルトを本締めする…」
作業手順書を作成すべき作業
すべての作業に作業手順書が必要なわけではありません。以下の基準で作成対象を選定します。
作成が必要な作業
| 基準 | 具体例 |
|---|---|
| 重大な危険を伴う作業 | 停電作業、高所作業、酸欠危険場所での作業 |
| 品質に重大な影響がある作業 | 高圧ケーブルの端末処理、接地極の施工 |
| 初めて実施する作業 | 新しい工法・新製品の取付 |
| 過去にトラブルが発生した作業 | ヒヤリハット・不具合が報告された作業 |
| 非定常作業 | 通常の手順と異なる方法で行う作業 |
作業手順書の構成
基本構成
- 作業名称
- 作業の目的
- 適用範囲
- 必要な資格
- 使用する工具・材料
- 保護具
- 作業手順(ステップ)
- 安全上の注意事項
- 品質チェックポイント
- 緊急時の対応
作業手順の書き方のコツ
コツ1: 1ステップ=1動作
❌ 「吊りボルトを取付け、ラックを載せて水平を確認し、本締めする」
✅ ステップ1: 吊りボルトをインサートにねじ込む
ステップ2: ナットで仮固定する
ステップ3: ラックを吊りボルトに載せる
ステップ4: 水準器で水平を確認する(管理値: ±3mm/m)
ステップ5: ナットを本締めする(トルク: ○N・m)
コツ2: 「急所」を明記する
各ステップで特に注意すべき点(急所)を明記します。急所は安全・品質・効率のいずれかに分類できます。
| ステップ | 動作 | 急所 | 分類 |
|---|---|---|---|
| 1 | 脚立を設置する | 開き止め金具を確実にロック | 安全 |
| 2 | 吊りボルトを取付ける | インサートの位置を確認(図面と照合) | 品質 |
| 3 | ナットを本締めする | トルクレンチ使用(○N・m) | 品質 |
| 4 | 水平を確認する | 両端と中央の3点で測定 | 品質 |
コツ3: 写真・イラストを活用する
作業手順書の主な読者は現場の作業員です。文章だけでは伝わりにくい手順は、写真やイラストで視覚的に示します。
- OK例とNG例の写真を並べて比較
- 工具の使い方を写真で示す
- 測定箇所を図面上にマーク
- 仕上がりの基準を写真で示す
コツ4: 所要時間の目安を記載する
各ステップの所要時間の目安を記載すると、作業計画の参考になります。また、大幅に時間がかかっている場合に「何かおかしい」と気づくきっかけにもなります。
作業手順書の作成例
例: 停電作業の手順書
作業名称: 高圧盤内の結線作業に伴う停電操作
必要な資格: 高圧・特別高圧電気取扱者(特別教育修了者)
使用する保護具: 絶縁手袋、絶縁長靴、保護帽、保護メガネ
| ステップ | 動作 | 急所 | 確認者 |
|---|---|---|---|
| 1 | 作業責任者が停電範囲を関係者に周知する | 影響を受ける全部署に連絡完了を確認 | 作業責任者 |
| 2 | 電気主任技術者立会いのもと、断路器を開放する | 操作手順を指差呼称で確認 | 電気主任技術者 |
| 3 | 検電器で無電圧を確認する | 3相すべてを検電、検電器の動作確認を事前に実施 | 作業責任者 |
| 4 | 短絡接地器具を取り付ける | 接地側を先に接続、充電部に触れないよう注意 | 作業責任者 |
| 5 | 断路器に「投入禁止」の札を取り付ける | 施錠する(鍵は作業責任者が保管) | 作業責任者 |
| 6 | 作業区画にバリケードと注意標識を設置する | 関係者以外の立入禁止を確認 | 作業責任者 |
| 7 | 作業を開始する | — | — |
| — | (作業完了後) | — | — |
| 8 | 作業区画内に人がいないことを確認する | 声かけ+目視確認 | 作業責任者 |
| 9 | 短絡接地器具を取り外す | 充電部側を先に取り外す | 作業責任者 |
| 10 | 「投入禁止」の札を撤去する | — | 作業責任者 |
| 11 | 電気主任技術者立会いのもと、断路器を投入する | 異音・異臭がないことを確認 | 電気主任技術者 |
| 12 | 各回路の電圧を確認する | 正常電圧であることを確認 | 作業責任者 |
| 13 | 復電を関係者に通知する | 停電通知先と同じ範囲に連絡 | 作業責任者 |
作業手順書の運用
TBM(ツールボックスミーティング)での活用
作業手順書は、作業開始前のTBMで読み合わせを行います。
- 作業手順書をもとに、当日の作業内容と手順を全員で確認
- 急所(安全・品質のポイント)を重点的に共有
- 過去のヒヤリハット事例があれば併せて共有
- 作業員からの質問・意見を受け付ける
定期的な見直し
作業手順書は、以下のタイミングで見直し・改訂します。
- ヒヤリハット・事故が発生したとき
- 作業方法を変更したとき
- 新しい工具・材料を採用したとき
- 法令・規格が改正されたとき
- 作業員から改善提案があったとき
改訂履歴の管理
| 版数 | 改訂日 | 改訂内容 | 改訂者 |
|---|---|---|---|
| 第1版 | 20XX/XX/XX | 初版作成 | ○○ |
| 第2版 | 20XX/XX/XX | ステップ3に検電器の事前確認を追加 | ○○ |
まとめ
作業手順書は、安全で確実な作業の実行を支える「現場のマニュアル」です。施工要領書が技術的な方法を示すのに対し、作業手順書は1つ1つの動作レベルまで落とし込んで安全と品質を確保します。
すべての作業に作成する必要はありませんが、重大リスクを伴う作業や過去にトラブルが発生した作業については、必ず作業手順書を整備し、TBMで活用する体制を構築しましょう。
